瓢箪崩(ひょうたんくずれ(532.4m)  昭和61(1986)年10月19日

朝突然「大原の方へ歩きに行ってくる」と宣言、8:30出発。同志社混声練習にひっかけてのことである。
 快晴。四条から京阪三条まで徒歩。戸寺(とでら)まで350円の切符を買って、待っていた京都バスに飛び乗る。すぐ発車。満員だったが、宝ヶ池付近で坐る。比叡が青空にくっきりとその雄姿を見せている。

10:30戸寺着。バス停前に大原ユースホステル。民営らしく、至極プリミティヴなたたずまい。そのそばを高野川に下りてゆく。川のそばから金毘羅山、翠黛(すいたい)山=寂光院裏山=があざやかに望まれる。1枚写真をとって、電話ボックスのそばを左折。あと道を左へ左へととり、家並みが切れるあたりから林道に入る。

杉、桧の欝蒼と茂った道とブッシュの中の道が交錯、人っ子一人通らない静寂な道。しかし、釈超空の「葛の葉の踏みしだかれて色新し この山道を行きし人あり」ではないが、新しい踏み跡がある。最近雨などほとんど降っていないのに道は湿っぽく、せせらぎの音が高い。
 そのうちにちょっと広いところで一面水びたしになっているところから林道が消え、山道になる。ブッシュが前を遮るので、絶えず手で払いながら進まねばならない。道は谷道で展望なぞ薬にしたくともない。
 そうするうちに傾斜が急になり、谷道というより山道になった。谷道のときは一応道があるが、山道となってからはだんだん不明確となり、いつしか山道自体単なる踏み跡になってしまう。

ポツポツとくるものがある。上を振り仰ぐといつしか木洩れに見えていた青空が鉛色。こりゃヤバい。とりあえず登り切ることだ。急げ。
 とうとう寒谷峠到着。痩せ尾根で江文峠からの道、瓢箪崩山への道、岩倉への下り道とで四差路になっている。写真は暗くて条件が悪い。オートにすると開放で4分の1秒になってしまう。

11:35写真をとって瓢箪崩山(左)へ歩き出す。すぐ二股に分かれるが、左をとり、岩を巻いて登る。気がつくとカメラレンズキャップがない。先ほどの撮影のとき落としたらしい。どうせ戻って来るのだから、ままよとばかり歩を進める。
 道はダラダラ上がったり下がったり。途中で20人位のオバンパーティに行き会い挨拶を交わす。一度頂上かと思ったら、もうひとつ向うとの表示がある。

漸く瓢箪崩山頂上に着く。見晴らしはよいと案内書にあったが、ナーニ東に比叡の頂上がチラリと見えるのと、北方が少し開いているだけ。殆ど展望が利かない。あとは木々に隠されて見えないのだ。
 雨は相変らずポツポツ。木陰でアンダーシャツを着換え、缶ウーロン茶を飲む。まわりの木にいろんな記念の札がかかっている。いわくボーイスカウト京都第80団CS、その他いろんなグループ。その中に「○○低山跋渉会」というのがあった。「低山」というのになるほどと妙な所で感心する。
 標高532.4m。例によってころがっていたコンクリートブロックにカメラを据え、セルフタイマーで記念撮影後出発。元の道を引き返す。

(承前。左=東・比叡、右=北・北山)

峠に着いて見回すと、あった、あった。道標の杭の上にレンズキャップがチャンと置いてあるではないか。誰かしらんがどうも有難う。思わず声に出して礼を言う。
 いざ下り。先述のようにここは痩せ尾根で南北は切り立っている。こういうところの例で、道はガレ道。近くにあった棒切れを杖代わりに拾ってつく。とにかく大変。ここで滑ったら岩湧山の二の舞と思うから自然慎重になる。道はつづら下りだが何しろ傾斜がきつい。気をつけていても2〜30cm滑る。右足を庇うのでどうしても左足の滑る率が高くなる。
 1人のオッサンが休んでいるところであいさつして行き過ぎると、何と今日の最難関、急斜面である。100m余りを木の根っこにしがみつき、尻餅をつかんばかりにしてズルズルと下りる。なんべんやっても気持のいいものではない。

下りたところから林道が始まる。振り返ればなるほど急斜面である。ほとんど直下に近い状態で下りて来たのだった。
 左手の谷を流れる清流に沿い、木の間を歩く快適な下り道。途中で三つ葉を摘んでいる親子連れ、メシを炊いている完全装備のオッサン等を見やりつつ急ぐ。

飛騨の池のそばで世話になった杖を薮の中に放り込む。すぐ岩倉長谷町に入る。農家が多く、収穫のシーズンであちこち脱穀の真っ最中。時すでに12:30。

振り返って瓢箪崩山を捜すが仲々見つからない。本当につつましやかな遠慮深い山である。その姿を見せたがらない。あれ位かと適当に見当をつけた方向にカメラを向けてシャッターを切る。時折雲が行き過ぎるが、基調は晴れ。

腹が減ったがメシを喰う場所がない。店が少ない上に日曜で締まっている。仕方がないから町へ出てからにする。
 岩倉発1:13の叡電で出町柳へ(190円)。出町商店街のお好み焼き屋で昼食をしたのが2時。あと徒歩で京都教会のDMCへ参加する。