ㅤ大和葛城山(959.7m)  昭和61(1986)年2月15日ㅤ

 

前日石井スポーツでガスコンロ、ガス及びナベを購入、その威力を試したくて計画した。家からレトルトの農協御飯を1つ持って出、ローソンでカッブ麺を1つ買って出発。

近鉄御所ごせ駅からバスで15分、上名柄かみながら下車。10:20。日和は何ともいえない。一応晴れているが山ははっきりしない。やや右寄り正面に今日目指す葛城山がそのゆったりした風貌を見せている。

左手には金剛山。その山峡が水越みずこし峠。まず峠道をとって歩き始める。国道309号線はほとんど一本道。

ややあって「左こんがう山」の碑のところで金剛山への道を分ける。

峠道の大掛かりなバイパス工事中で案内書と様相が違い、ウロウロする。ここでもカンにものをいわせ、何とかルートにのってしまう。
 葛城の水分みくまり(=みずくばり)神社にかかる。葛城山南東麓に位置し、麓一帯の田圃に水を分ける、いにしえの人の生活の知恵が生んだ共同体の神であったに違いない。今でもとうとうと水が流れ落ち、その豊かさは印象的。
 ここからいよいよ峠にかかり、道はつづら折れでいったりきたり(井上ひさしの吉里吉里人ではないが)、時には西に向かっている筈が、正面に御所方面が見えたりする。時折大阪に向かう車、大阪から越えてきた車がすれちがう。

そうするうちに祈りの滝にかかる。えんの行者が修業したという言い伝えもあって、行者の滝ともいうと説明板にある。高さ8m。道はヘヤピンでやや奥まったところにあり、小祠が一宇。しばし休んで汗を納める。車で来た人が1人休んでいる。

なかなか峠にならない。ヒョッとすると行き過ぎたのかと思ったころ、漸く峠が見つかる。上名柄から延々6.2kmを1時間かかった。ここまでの道は殆ど平坦で、府県境表示のところから大阪側へ急に下り坂になっている。峠の標高520m。
 ちょうどそこから右へ石段の登山道が始まっている。前日来の雨のためか、登山道そばの溝を清冽な山水がほとばしっている。この水にあとあと悩まされようとはそのときは夢想だにしなかつたが。
 峠を少し大阪側へ下ったところから左へ金剛山への登山道が始まっているのを見て、やおら葛城山目指し登り出す。11:20である

しばらくはふつうの山道が続く。と思う間もなく石畳の急坂にかかる。これを100m位過ぎると道は途端にドロンコ道になる。

振り返ると金剛山北麓は指呼の間にあり、ところどころ雪を残している。今は登るのみ。黙々と高度を稼ぐ−といいたいところだか、ドロンコ道はたとえようもなく歩き難い。とにかく滑る。もうこれが何とも嫌。滑ると靴がよごれる。ズボンがよごれる。それだけならいい。バランスを失いコケる。しりもちをつく。下手をするとどこかを痛めるかも知れない。何せ急なため、一寸滑ると数メートル滑落するおそれさえなしとしない。「何でこんなにぬかるんでるねん」ブツブツ独りごとをいいながら潅木の根っこを掴み、一歩一歩登る。不思議はない。下の溝をほとばしっていた水は、上ではこうやつてぬかるみの元兇となっていたのである。

やがて肩らしきところに出て一息つく。道標のところから金剛山を振り返って写真をとる。ここからは傾斜が緩くなり、杉林にそってまわりこむ。このあたりから雪が道のところどころに残り、特に杉林の中は多い。
 早い出発だったのか、向うから来る人が挨拶を交わして行き過ぎる。断片的な会話から察するに、どうやら水越峠を経由して金剛山に向かうらしい。数人のグループらしく、いずれも相当の脚力の持ち主と見受けた。

杉林の茂る南のピークを巻くと、突然葛城山頂上に立つ国民宿舎が見える。ここから一旦自然つつじ園(葛城山の名所)へ下るのだが、これがアイスバーンで危ないことこの上ない。誰しも一緒らしく、道の横にロープが張ってある。極度にペースをスローダウンして慎重に下る。約100m。ここから国民宿舎へはすぐ。道は緩斜面で、間もなく葛城高原ロッジに到着。

しばし南の斜面に拡がるつつじと、杉林の右向うにその雄姿を覗かせる金剛山をしばし楽しんで、少し向うのピークに向かう。

どこか炊事するのに適当な場所はないか、キョロキョロしながらゆく。西の風が相当強いので、吹きさらしの頂上付近では一寸無理。ところがである。曇っていた空からいつしか雪が降りだした。雪は殆ど横に降ってくる。雪曇りで大阪側は全く見えない。頂上付近に積もっている雪はグショグショでいい状態ではない。炊飯を諦めて1軒開いている食堂に入ろうと思ったが、そこはそれ、折角昨日買ったガスコンロに申し訳ない。またこんな状況の中でどの程度ガスコンロが働くのか見てみたい気もある。漸く閉じられたある売店を見つけ、その蔭にセットして湯を沸かし始める。しかしなかなか沸騰しない。弱った。沸騰しないとレトルトの御飯が食べられない。
 泡が鍋の内側について来たとき、待ち切れずレトルトを突っ込む。半分しか湯に浸からない。しばらくしてひっくり返すが、もうだめ。取りだして袋を開けて食べる。やはり先の方はいけるものの、後の方は完全にカンチ飯。しかし食べなきゃしようがない。残りの湯でカップ麺をつくって食べる。これは大丈夫。しかし食べ終わるととたんに寒くなってくる。
 湯を沸かすのにたいそう時間をくい、縦走は諦める。(というよりも、炊飯場所からすぐ縦走路に入る道を間違えたというのが本当のところ)

頂上標識(959.7m)のところで写真をとる。

グシャグシャの道をケーブル駅の方にとって歩き出す。自然研究路への分岐を左折し、斜面を巻いてゆく。再び雪が降ってくる。墨絵のような風景。道は雪に覆われ、斑状。写真をとりながら下る。途中で何人かを追い抜く。

やがてカントリ谷の吊橋にかかる。この下を通って登れば自然研究路の復路で、ケーブル駅に戻る。道標に従うとすぐ数10mの急斜面。雪と泥とで危ないことこの上ない。無事クリアして新登山道を下りにかかる

比叡の雲母坂と同じような溝状の道。殆どぬかるみで、楽に歩ける場所がない。あっちへ跳び、こっちへ跳びして出来るだけ汚れないようにと考えるが、却ってハネは上がる、滑りそうになるで、もう覚悟を決めるよりない。
 開き直って悠々と降りようとすると、今度はまた急斜面。ドロドロの道を木の根っこをつかんで慎重に降りる。時折右手後方を見上げるが、頂上は雪雲で見えない。右手の谷は本来の登山路だが、昭和57年の集中豪雨で崖崩れし、登山禁止になったままということである。

不動寺を右に見て、やっとケーブル駅のそばに到着。安心して家に電話。ビールのうまいこと!!バスで御所駅に戻り、今日の日程終了。